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名古屋地方裁判所 昭和59年(ワ)3389号 判決 1986年1月31日

原告

中部交通共済協同組合

被告

箱根登山観光バス株式会社

主文

一  被告箱根登山観光バス株式会社は原告に対し金八七万七一五七円及びこれに対する昭和五九年三月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告川端勲、同村川隆司は原告に対しそれぞれ金四三万八五七八円及びこれに対する昭和五九年三月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを六分し、その五を原告、その一を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して原告に対し、金九九五万円及びこれに対する昭和五九年三月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通共済契約の締結

海老運輸有限会社は、昭和五七年一〇月二日、原告中部交通共済協同組合との間に、普通貨物自動車(三河一一か七七九二)の使用または管理に起因して他人の生命又は身体を害すること(以下、対人事故という。)、他人の財物の滅失または汚損すること(以下、対物事故という。)により右海老運輸が法律上の損害賠償責任を負担することによつて蒙る損害を原告組合が対人事故については金五〇〇〇万円、対物事故については金三〇〇万円の範囲内にて共済金を支払い填補する(但し対物事故については免責額を金五万円とする。)内容の交通共済契約を締結した。

2  本件(交通)事故の発生

(一) 日時 昭和五八年八月二日午後一時頃

(二) 場所 長野県下伊那郡根羽村五一〇四番地先路上

(三) 態様 中林栄蔵は、右海老運輸所有の普通貨物自動車(三河一一か七七九二)を運転し、平谷村方面から稲武町方面に向けて片側一車線の国道一五三号線を走行中、本件事故現場付近に差しかかつたところ、同車前方は同車にとり右に急カーブしている道路であり、且つ同カーブ入口付近に被告川端運転の被告箱根登山観光バス株式会社(以下被告会社という。)保有の大型乗用自動車(名古屋二二か二六一九)及び被告村川運転の被告会社保有の大型乗用自動車(名古屋二二か二八〇五)が右中林車の進行車線上を同車の進路を塞ぎ、且つ同車の前方の見通しを妨げる状態にて駐車していたため右中林車は対向車線側の進行を余儀なくされ、折りから対向してきた田中聡運転の自動二輪車(一三河え四三一四)と衝突し、田中聡を即死させたものである。

なお、被告川端車は被告村川車の前方に駐車していた。

3  責任原因

(一) 被告川端、同村川は、自車の駐車した場所が右に急カーブをしている道路の入口付近であり、自車が大型乗用車両(車幅二・五メートル、全長約一二メートル)であることから、自車の車線上を塞ぎ後続車両にとつてその前方の見通しを妨げるような位置への駐車を厳に慎むべき注意義務があるのに、これを怠り、あえて自車を後続車両の車線を塞いでその見通しを妨げる位置に駐車し、後続車を約二六メートルにわたり完全に対向車線への走行を余儀なくさせたことが本件事故の根本的な原因であるから、同被告らには重大な過失があつたものといわなければならない(民法七〇九条)。

(二) 被告会社は、本件事故当時、被告川端運転車両及び被告村川運転車両を自己のために運行の用に供していたのであり、且つ、被告川端、同村川は被告会社の業務を執行していた(自賠法三条、民法七一五条)。

4  求償権の取得

原告組合は、田中聡の死亡による損害賠償につき同人の相続人と右海老運輸及び右中林との間で昭和五九年三月一三日に自賠責保険よりの既払金の他に金一〇〇〇万円(対人事故金九六〇万円、対物事故金四〇万円)を支払う旨の示談が成立した(内訳は別紙のとおり)ことに伴ない、右田中相続人に対し同月二六日に対物事故免責金五万円を差し引いた合計金九九五万円の共済金を支払い、右損害を填補して被告らに対する求償権を取得した。

5  よつて、原告組合は被告らに対し連帯して、前記求償金金九九五万円及び支払日の翌日である昭和五九年三月二七日から支払済みに至るまで民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因第1項の事実は不知。

2  同第2項の中交通事故の(一)日時、(二)場所は認め、(三)態様のうち中林車が対向車線に進入して田中車と正面衝突し、田中聡が死亡したこと、被告村川車が現場付近に駐車し、被告川端車が停車していたことは認めるが、その余は否認する。

被告村川車、同川端車は道路左側端に駐車していたのであり、自車線を完全にふさいでいたわけではなく、後続車からの見通しを妨げることはなく、対向車線の見通しは良好である。

3  同第3項(一)の事実は否認する。

(一) 被告川端、同村川車の本件駐車場所は駐車禁止場所ではなく、本件駐車場所手前からの見通しはよく、駐車していることは手前から十分に確認できる。

被告川端、同村川車は道路左側端に駐車しているのであつて、駐車方法にも問題はない。

本件事故は昼間であり、被告川端、同村川車は前記のとおり手前から十分見通せる場所に駐車していたので、右中林は十分、被告川端、同村川車を確認でき、現認している。右中林が被告川端、同村川車を発見してから本件事故発生まで、右各車はずつと駐車したままで全く動いていない。

被告川端、同村川車は右中林車の予測を裏切るような行動も常軌を逸した行動も全くしていない。

従つて被告らに過失はなく、駐車と本件事故との間には相当因果関係がない。

(二) 本件事故は右中林の過失により発生した。

右中林は、被告川端、同村川車が道路左側端に駐車していたので、その右側方を通過する場合、対向車線へのはみ出し方をできるだけ少なくすべきである(道路交通法一七条五項)。本件事故当時、右中林の進行車線は、被告川端、同村川車が駐車していたが、まだ約一メートル以上空いていたのに、右中林は完全に対向車線に進入し、しかも進行方向から見て大きく右にふくらむような進路をとつている。

対向車線にはみ出して運転する場合には速度を十分に落し、前方注視を厳にすべき義務があるのに、右中林は漫然と時速五〇ないし六〇キロメートルの高速で進行し、対向する一台目のバイクを見送るような行動をとり、この間前方に対する注視を全く欠いており、再び前方を振り向いたとき右田中車は約二八メートルの距離に接近していたので、右中林は急制動措置をとつたが間に合わず衝突した。

右中林は対向車線進行中一度も警音器を吹鳴していない。

4  同第3項(二)の事実は認める。

5  同第4項の事実は不知。

第三証拠

本件記録の調書中各書証目録、各証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  請求原因第2項(一)、(二)(本件事故の日時場所)の事実及び同項(三)のうち中林車が対向車線に進入して田中車と正面衝突し、田中聡が死亡したこと、被告村川車が本件事故現場付近に駐車していたこと、請求原因第3項(二)の各事実は当事者間に争いがない。

成立に争いがない甲第一一、第一二号証によれば請求原因第1項の事実が認められる。

二  成立に争いのない甲第一ないし第三、第五ないし第七、第一〇号証によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場付近道路は、国道一五三号線でアスフアルト舗装してあり、平坦で乾燥しており、車線側の幅員は平谷村方向、稲武町方向行両車線で約八・一メートルであり、制限速度は時速五〇キロメートルであり、信号機はなく、交通量は少なく、急カーブになつており、中林栄蔵運転車両進行方向からの見通しも、田中聡運転車両進行方向からの見通しも不良であつた。

2  中林栄蔵は右海老運輸所有の普通貨物自動車(三河一一か七七九二号―車幅二・三七メートル)を運転して長野県飯田市、平谷村方面から愛知県稲武町方面に向け時速約五〇キロメートルの速度で進行してきたところ、本件事故現場付近の右中林車進行車線上に、被告会社保有・被告川端運転、被告会社保有・被告村川運転の各大型観光バス(大型乗用自動車各五七人乗り―以下右各車両を「被告村川車」、「被告川端車」といい、右二台をまとめて「被告ら車両」という)が停止していたため、右中林は被告ら車両を追い越そうとしてハンドルを右に切つて速度を時速約四〇キロメートルにして道路右側(対向車線)を進行していたところ、被告ら車両駐車場所のすぐ先の右急カーブから二人乗りのバイク(二輪車)が現われ、対向進行してきたので、危ないと思いハツとしたが、右バイクは右中林車をよけて、その右側を通り過ぎて行つた。

右バイクを見送つた直後、右中林は約二八・七メートル前方に田中聡運転所有の自動二輪車(一三河え四三一四号)を発見し、「危ない」と思い、すぐ急ブレーキをかけたが、間に合わず、右中林車の前部右側を右田中車に衝突させ、同日右田中を死亡させた。

右田中車は時速五〇キロメートル位の速度で進行していた。

3  被告川端、同村川は昭和五八年八月二日被告会社保有の被告ら車両(本件観光バス二台)を運転して愛知・長野県境付近の茶臼山まで乗客を運び、同日午後〇時五分ころ乗客を下ろして同所を出発し、長野県下伊那郡根羽村から国道一五三号線に出て愛知県稲武町方面に向け進行し、同日午後〇時三五分ころ本件事故現場付近に到着し、先頭に被告川端車、続いて被告村川車の順で道路左側寄りに被告ら車両を駐車させ、向かい側の喫茶店で昼食をとり、午後一時ころ、被告ら車両に戻つたころ、本件事故が発生した。

被告ら車両が駐車していた場所は急な右カーブ(曲線半径六〇メートル)の入り口付近であり、被告ら車両の車幅はそれぞれ約二・五メートル、車体の長さはそれぞれ約一二メートルであり、被告村川車の右側側端から道路中央線までの距離は約一メートルである。

なお被告川端車駐車場所の直前の左側に旧道の入口がある。

三  以上認定の事実を総合すると、本件事故は右中林が被告川端車、被告村川車の右側を通過するに際し、道路中央線を越えて対向車線を進行し、進路前方の安全確認を怠つた過失により、田中聡車の発見が遅れたため惹起されたものということができるが、本件事故現場付近道路は駐車禁止規制こそなされていないものの、前記のとおり、急な右カーブになつており、右中林車進行方向からも、右田中車進行方向からも見通しが不良であり、被告ら車両が駐車すればその車体右側側端から道路中央線まで約一メートルしか残らないこと等から、被告川端車、同村川車の本件事故現場付近駐車も、右中林の前記過失を誘発助長したことにより、本件事故の原因をなしており、被告らは被告ら車両の本件駐車が本件事故現場道路の前方の見通しを妨げ、二四メートル位以上にわたり右中林車の対向車線進行をやむなくすることは当然予測し、又は予測可能な状態にあつたものと認められるから、本件事故は、被告川端、同村川車の本件駐車と相当因果関係があり、同事故は、被告村川車、同川端車の過失ある運行によつて発生したものということができ、また被告会社は被告川端、同村川の使用者としてかかる場所方法による駐停車を避けるよう被告川端、同村川を指導・監督すべき注意義務を怠つたことが認められる。

四  前記認定事実及び成立に争いがない甲第四号証、第一三号証(原本の存在についても争いがない)、第一四号証の一ないし三、第一七号証、証人鈴木直治の証言及びこれにより真正に成立したと認められる甲第一五、第一六号証の一ないし三によれば、原告は、死亡した田中聡(本件事故当時一六歳)の本件事故による損害賠償につき右田中の相続人と右海老運輸及び右中林との間で昭和五九年三月一三日に自賠責保険からの既払金の他に金一〇〇〇万円(対人事故金九六〇万円、対物事故金四〇万円)を支払う旨の示談(内訳は別紙のとおり)が成立したことに伴い、右田中の相続人に対し同年三月二六日に対物事故免責金五万円を差引いた合計金九九五万円の共済金を支払つたこと、右示談中人損については、右示談通りの本件事故と相当因果関係ある損害の発生したことが認められる。

しかし右示談中、物損については、本件全証拠によるも、全損と認めるに足りず、前記各証拠によれば、自動二輪車修理代金一四万六一九〇円の限度で本件事故と相当因果関係ある損害と認められる。

五  被告らの過失割合(負担部分)

従つて前記四認定の損害につき、右海老運輸、右中林及び被告らは共同不法行為者又は使用者、運行供用者として連帯責任を負い、原告は右海老運輸(右中林の使用者)との間に結ばれた交通共済契約に基き右損害につき前記のとおり代位弁済をしたことにより求償権を取得したものであるところ、その場合の各自の負担部分はその過失の割合、運行支配、運行利益の帰属割合など諸般の事情を総合して公平の見地により定められるべきである。

前記認定の事実を総合すると、本件事故における右中林らと被告らの各負担部分は右中林・海老運輸合計八二パーセント、被告川端、同村川各四・五パーセント、被告会社九パーセントと認めるのが相当である。

よつて原告の前記弁済金中前記四認定の人損九六〇万円、物損一四万六一九〇円のうち原告が求償しうる金額は、次の計算により、被告川端、同村川に対し、それぞれ金四三万八五七八円、被告会社に対し金八七万七一五七円と認められる。

(被告川端、同村川)

974万6190×0.045=43万8578(円)

(被告会社)

974万6190×0.09=87万7157(円)

六  以上によれば、原告の本訴請求は、被告会社に対し求償金八七万七一五七円及びこれに対する弁済日の翌日である昭和五七年三月二七日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金、被告川端、被告村川に対しそれぞれ求償金四三万八五七八円及びこれに対する前同昭和五九年三月二七日から完済まで前同年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり、その余の請求は理由がないから、これを棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神沢昌克)

示談内容

一 人損 二九六九万六〇二〇円

1 治療費 九万四一二〇円

2 入院雑費 六〇〇円

3 文書料 一三〇〇円

4 逸失利益 一八〇三万五九四〇円

年齢別平均賃金一三万円×一二か月×〇・五×二三・一二三

5 慰藉料 一〇八六万四〇六〇円

6 葬儀費 七〇万円

二 物損 四〇万円

自動二輪車(全損扱い) 四〇万円

三 右人損・物損合計額三〇〇九万六〇二〇円から自賠責保険からの支払金二〇〇九万六〇二〇円を差し引くと一〇〇〇万円となる。

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